石垣島便り

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2015年 01月 09日

石垣島における旧汀線と南方系海流散布植物の分布について

昨年、開かれた第14回漂着物学会沖縄・石垣島大会では、上記タイトルの演題で口頭発表をした。
副題として、(バンナ岳におけるモダマ分布調査より)とつけた。
実際には、似たような内容の報告をこれまでに何度かしてきたが、今度は具体的な調査例を添付した。
バンナ岳では、公園の整備がひととおり整い、管理体制も充実してきたので、
モダマ自生地の詳細を示しても採集圧などの心配が無いと判断したからだ。
また、これまでに「知られないがために」伐採されてしまったりした例を幾度も経験してきたので、
「知ることで」皆で見守ることに期待を込めた。

今回大会に参加できなかった方たちへ、それと私自身のメモとして載せておく。
調査の方法は、バンナ岳山中を徒歩で歩き回り、また、見晴らしの良い場所では樹冠を覆う枝葉を双眼鏡で
見つけ、現場へ行ってGPSで自生地の高度、位置、ツルの太さを記録した。
こうして作った調査票をもとに1/2万5千の地図に自生地分布を表したものが図1,である。
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1~93までの●がモダマ(Entada phaseoloides)の自生位置である。太い実線は等高線の海抜100mを
表す。この図から分かることは、バンナ岳の東西南北周囲の海抜100m少々、以下に自生していることである。
また、分布に大きな偏りがない。例えば、津波のような一過性の出来事で内陸部に進出したのであれば、
震源地に対峙した斜面の高位部に自生が多く見られることになるであろう。
石垣島の場合、プレートの潜り込みが太平洋側にあるため、震源地の多くはそちらに記録されている。
バンナ岳のモダマ自生分布を見る限り、むしろ、北西から北東にかけた名蔵側に多いことが分かる。

次は、調査票をもとに自生地の高低を表したのが表1、である。
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表1,の○は、バンナ岳に自生するモダマを南西部から西、北、東、南の順で1~93までの高度を書き込んだ。
分布上限は、およそ110m辺りであることが分かる。
下部の自生地に関しては、人為的な開発等で喪失したと思われる。原因は畑、採草地、松造林などである。
表のほぼ真ん中の点線は、石垣島における琉球石灰岩の上限を示した。
海抜80m程で、バンナ岳南側には琉球石灰岩から成る段丘が市街地から緩やかなスロープで麓に至る。
この現在見られる琉球石灰岩から成る段丘のやや上部に旧汀線(高位海水準)があったと考えられる。
琉球石灰岩は、浅海で形成されたサンゴ礁(動物の遺骸の堆積)であるから、旧汀線はさらに上部に達していたのであろう。
(この詳細は、後で検討する)

次に表したのが、バンナ岳を中心として石垣島の南北断面図と地質図である。
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地質図は、沖縄県立博物館紀要No,6「石垣島の地質」2013,遅沢壮一より。

図のように石垣島の南側と北側には琉球石灰岩から成る段丘が発達しており、中央部の低地である名蔵川
流域では沖積層が見られ、そこには一部ブネラ海成粘土層が知られている。
つまり、現在ひとつの石垣島は、かつてバンナ岳と於茂登山系とに分かれた別々の島であったことになる。
(ここでは、北東部の伊原間、明石などは省略する)

調査地域バンナ岳と対照するため北部の仲筋・吉原の調査は次のとおりである。
ここでは、モダマだけではなく南方系海流散布植物(これも後に詳細は検討する)も含めて表した。
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図2,は、川平湾、仲筋、吉原地域の空中写真に南方系海流散布植物の分布上限を示したものである。
黄色い点線が琉球石灰岩から成る段丘。
○、△、□、◇、◎は、モダマ、ナンテンカズラ、サキシマスオウ、ミフクラギ、サガリバナ等の南方系海流散布植物
の指標とする分布上限である。
バンナ岳が基岩を変成岩のフサキ層にするのに対し、この調査域では、第三紀中新世に貫入した花崗岩である。

いずれにしろ、島の周囲を琉球石灰岩の段丘が形成されていることから島の隆起を物語っている。
これら島の地形と植生を考える時、南方系海流散布植物の分布上限がおよそ海抜80~110m
(島の隆起速度は地域によって異なる)にあり、段丘が形成された時代の旧汀線との関係が示唆される。

島の高位部にはブナ科のイタジイやオキナワウラジロガシなど海流散布をなしえないと考えられている
植物の極相林が形成され、分散が非常に遅いとされるウマノスズクサ科カンアオイ属のオモロカンアオイ
などが自生する地域(於茂登山系)がある。いわゆる大陸島とされる由縁の生物の一群である。
一方、これまでの調査で「南方系海流散布植物」の指標とした植物の一群は、旧汀線付近を分布の上限とし
ていることが分かった。

バンナ岳には、海抜50~60m付近にサガリバナ群落があり、大嵩、仲筋、吉原地域にも同様な高度に
自生地がある。また、今回の調査地域ではないが崎枝屋良部半島のタッチューガーラには海抜80m付近
に群落がある。これらのことは会報第47号にて報告した。
また、於茂登トンネル南側には、海抜80~100mにかけてサキシマスオウの群落が見られる。
こうしたモダマを含めた南方系海流散布植物の指標とした種は、旧汀線以下の森に群落を形成したり、
点在していることが記録される。

考察。
以上の観察結果から、下記のような推測図を描いた。

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○のマングロープや海浜性植物は海水準の低下とともに自生地を変える。
それに対して南方系海流散布植物の指標とした植物群は、海水準の低下にも関わらず残存する個体群が
あり、成育適地では現在も遺存しつづけている。
しかし、地形の変化、環境の変化によってこれまでに消滅した個体は少なからずあるのだろう。

次に、大嵩、仲筋、吉原調査地域の中の点線Aの断面図で、海水準移動に伴う環境の変化と南方系海流
散布植物の遺存のイメージを描いた。
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図A断面は、現在の地形と南方系海流散布植物の自生の様子。
図B断面図は、一部を拡大した過去の海域のイメージ。


検討、その一。
ここで「南方系海流散布植物」の指標植物としたのは、南方起源と考えられ、種子が比較的大きく浮力を
有する植物であること、また、種子に毒成分(あるいは動物の嫌う成分)を含み、
他の散布法(動物散布、風散布等)が不可能と考えられる植物である。

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訂正、モダマの項で「小葉」とあるのは「子葉」の入力ミス。種子の中にある双葉のこと。

検討、その二。
石垣島を含む八重山諸島の旧汀線を考える上で参考になるこれまでの報告を引用する。

〇Foster(1965)は琉球層群の最下部に相当するブネラ粘土層の軟体動物相の特徴から、ブネラ粘土層
  を沖縄島の読谷石灰岩(河名、1988では同位体ステージ7と推定している石灰岩)に対比した。
〇木庭(1980)は旧汀線高度を90mと推定した。さらにブネラ粘土層からナンノ化石のE,huxleyiの普通
  産出(同位体ステージ6/5:13万年前以降)を認めたことにより、ブネラ粘土層を含む琉球層群から構成
  される段丘は、すべて同位体ステージ5e以降の段丘と考えた。
〇太田、堀(1980)も南部における最終間氷期の旧汀線を80mとした。
〇町田(2001)も同時期の旧汀線を南部地域で80~84m、中北部で50~70mと考えている。
〇Koba et,al.(1985)はナンノ化石のE,huxleyiの普通産出時期(木庭、1980)について再検討した結果
  同位体ステージ5e以前の時期が妥当とし、その後、ブネラ粘土層のESR年代として平均20万年前の値
  を得たことから、ブネラ粘土層を同位体ステージ7に対比した。
〇町田(2001)は、西表島の段丘面を同位体ステージ5eと推定した。
〇波照間島では、同位体ステージ7~5cまでの段丘の存在が報告されている。

これらを参考にすると、石垣島の段丘形成や旧汀線は、13~20万年前に形成され、高度は80~90m,
地域によっては低いことが推測されている。

by modama | 2015-01-09 14:50


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