石垣島便り

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2015年 11月 02日

Entada 属(モダマ)分布拡散の検討

島で暮らす人々にとってモダマは海流散布された植物だとする印象が強い。しかし、モダマ属全体の分布域を展望すると広い大陸での広がりもある。大きく重い種子であるモダマは基本的に重力散布(種子はすべて)であるが、風や水の流れ(水散布)など加わり現在の分布域がある。例えば島に漂着する種子も季節によって量の変化があり、その一因は季節風である。南西諸島では10月ごろから吹き始める北東の風によって、島の北側東シナ海を北上する海流(黒潮)によって運ばれた種子が吹き寄せられ島の海岸に漂着する。海流と風の共同作用ということができる。
海の無い大陸内部では、斜面での落下や雨水と河川の流れが主に種子を移動させる。ここでは地形と気候が重要な要素となる。
アジアに分布するモダマ属は、アフリカにおいてツル性で種子が大きく浮力を有したE. gigas から分化したE. rheedii を祖先とすると考えられるが、さらに遡ればアフリカに現在も自生する灌木性で種子の小さな祖先から進化したと思われる。これらの種は莢の内果皮も薄く、種子の種皮もさほど厚くはなく、海水や長期の漂流には耐えられないように思われる。アフリカ大陸内で拡散したのは比較的なだらかな地形と年ごとの乾季と雨季、あるいは気候が定まらない時代であれば、突発的な雨によって起こる一時的な氾濫原によって分散したのであろう。サバナ気候の原野を想起してみれば斉一的な光景が想像できる。地平線の彼方に湧き上がる雨雲が稲妻を伴い通過した後、ところどころ灌木の姿がある草原は一面の浅い湿地となり、時間と共に水が引いていく。その時、一方向に水が流れる小さな溝があれば、長い年月をかけて開析され河川となるが当初は比較的閉鎖的な溜まりとなる。その間、地表に散乱していた種子のうち浮くものは漂い、浮かぬ種子も十分な水分を含み発芽の準備ができる。数日後あるいは数週間後、雨水が干上がると大地ではいっせいに発芽がみられ草本は成長して開花する。その時、草本であれ灌木であれ、種子は移動の機会を得る。
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灌木性モダマ、Entada polystachya 種子直径1cm,莢(分離節果) 5×1,8cm 
分離節果(内果皮)は薄く、種子は小さい。風にも飛び、莢は一時的に水に浮くが、長時間の水散布は難しいと思われる。(写真の種は、中米産)


こんなサバナ気候の比較的なだらかな地形も長い年月を経るうちに溝は小川となり、河川となり谷ができ、浸食によって険しい地形へ変化していくことであろう。また、一方で地下では隠れた巨大なエネルギーによって大地の隆起をもたらすかも知れない。逆に大地が引き裂かれ溝地を形成するかも知れない。いずれにしろ砂漠のような過酷な環境でない限り地形は植生によって覆われつづけ、多様な地形には多様な植生が形成される。
そんな中、水事情の良い谷間や平地では樹木が陽光を求めて競合する。他の樹木をだしぬいていち早く明るい樹冠に達し、光合成を行うために自らの樹幹に使う資源を上へ上へと伸ばすことに特化したツル性植物は、そんな環境で進化したに違いない。ツル性モダマもその一例で、大きな種子は暗い林床で長い年月発芽チャンスを待ち受け、好条件を得ると一気に樹冠の陽光をめざして成長するエネルギーを種皮内の双葉に蓄えた結果なのかも知れない。種子浮力は長い時間林床で胚を小動物や菌類から守る丈夫な種皮と双葉との間隙によって得られている。やがて海水にも長期漂流にも耐ええる種子形質が海流散布をもたらした。
ここではアジアへ進出したモダマの起源であるアフリカを例に解説したが、この地形と植生の変化は何もアフリカでだけ起こったものではない。ネオテクトニクスによる造山活動がまだ地上においてそれほど活発ではなかった時代にアジア大陸に漂着したモダマは、初期、比較的なだらかな地形で同様な分散をしたのであろう。しかし、その後もつづく地形の変化は止むことなく激しいものになった。大地の隆起作用はモダマ自生地を高みへ押し上げ、河川による水散布は生育気温の可能範囲内で分散を試みた。急峻な峡谷から盆地へ、そして河川下流域の氾濫原へと広まりデルタ地域や汽水域から海洋へと種子は散布しつづけられた。
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赤い点線はアジア大陸におけるE. rheedii もしくはその祖先種の分布拡散。
黒い点線は現在のE. phaseoloides の分布域。(ここではE. tonkinensis をE. phaseoloides
系として扱った)
アジアにおいてE. phaseoloides はスンダランドの熱帯雨林気候地域でE. rheedii から分化したことが推測される。
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アジアにおけるEntada 属分布図。
A, E. rheedii (広域種), B, E. phaseoloides (広域種), C, E. tonkinensis, D, E. borneensis, E, E. spiralis, F, E. zylanica, G, E. grandulosa, H, E. reticulata, I, E. parvifolia

E. rheedii とE. phaseoloides では同じ広域種でも自生する陸域を考えるとE. rheedii の方がはるかに広い。種子浮力保有率の高いE. phaseoloides は島嶼に進出しているために分布図に描くと広く見える。
E. phaseoloides はスンダランド西側で分化し、東に分散し北赤道海流に乗った一部が黒潮に合流して北上したことが考えられる。パラオ、台湾、八重山、沖縄島の個体群がそれらで、沖縄島が北限になる。海流漂着種子としては本州各地でも記録され、一時的な発芽は九州で知られるが自生はない。一方、E. rheedii の海流漂着種子の記録は北海道まである。

アジアに進出したEntada 属を系統的に大きく分けると sect,Entada の中にsubsect,Entada
とsubsect,Sphaerospermae の2グループに分けられる(Brenan, 1967)。
この分類では、E. glandulosa, E. reticulata, E. parvifolia,3種がsubsect,Sphaeropermae に属し、他6種がsect,Entada に属すことになる。

私はアジアのEntada を考える上で、上記の分類を仮に手を加えてみた。
  subsect,Entada (A) E. rheedii, E. spiralis, E. zeylanica
           (B) E. borneensis, E. phaseoloides, E. tonkinensis
subsect,Sphaerospermae E. glandulosa, E. reticulata, E. parvifolia

subsect,Sphaerospermae 三種のうちE. glandulosa, E. reticulats の二種は大陸のサバナ気候地域で分化した個体であり、うちE. reticulata が海流散布のすえフィリピンでE. parvifoliaへ分化した。
subsect,Entada の(A)(B)は、現在さらに検討中である。




 


by modama | 2015-11-02 11:49 | Comments(0)


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