石垣島便り

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2013年 12月 14日

ENTADA NOTES (モダマを追って旅するアジア)

海辺に流れつく漂着モダマ種子にしろ、自生地で見る株や葉にしろ、モダマ類を識別するのは難しい。
世界中のハーパリューム(植物園や研究施設、大学の標本室)を巡っても、そこにあるのは干からびた
葉しかない。特にマメ科植物は、乾燥すると葉がぽろぽろと落ちてしまう。
多くの標本は、台紙に葉を貼りつけ保存しているが、すべてそろっているものは少ない。
そんなことから、自分が現地に赴き、できるだけ写真を撮るようにしている。
一度、新聞紙に挟んで、枝葉を平らにしてから写真を撮る。
現場では無理だが、街に出た時には、コピー機でスキャンするようにしている。
植物標本は、時によって海外持ち出しにクレームがつくこともあるが、データ化してしまえば問題ない。
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ここにはアジアに分布する8,9種(分類学者によって異なる)のうち6種を収めた。
モダマの種を見極めるには、小葉の枚数と形が大事な目安になる。
もちろん、花は最も大事な要素だが、開花期にうまく出会える機会は少ない。
石垣島のような海洋性亜熱帯モンスーン気候では、花が一年のうち大半の月に咲いている。
しかし、アジア大陸の内陸部では乾季と雨季がはっきり分かれるので、開花期は限定される。
ならば、開花期の目安が付けやすいように思いがちだが、それでも地域によって異なる。
ネパールでは3月下旬に見られたが、ラオスでは5月といったふうに、山間部の地域だからといっても
開花期がそろうわけではない。
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写真はラオス・ムアンゴイのE rheedii の葉。
同じ種類であっても葉の形は微妙に異なる。
基本的には小葉4~5対である。

葉も乾季には散って無い時期がある。これも石垣島のような比較的一年中雨の降る気候域と異なる。
また、熱帯でも乾季が冬にある地域と夏にある地域がある。同じアジアであっても気候は地域によって様々である。
上の写真③④のような葉の小さなタイプでは、乾季の間、完全に葉を落とす。
③はE reticulata で、地下に塊茎を作る。
大陸内部のサバンナ気候に適応している。
数千万年前もの昔、アフリカ大陸で種子が浮力を有した祖先種がアジアに渡って、
各地域の各環境で様々に適応し、変化してきた様子をモダマ属だけでも
垣間見ることができる。地球上の生物多様性は、生き物の歴史そのものである。
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写真はネパール・ラムナガールの森で地元の人と葉の採集、ここでは花は見られなかった。
葉は遥か上方の樹冠辺りにあったが、彼女が「女ターザン」のようにツルにぶらさがり、
葉を引き摺り下ろしてくれた。
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ここでは、葉と莢と種子のサンプルを採集することができた。
ネパールといっても海抜は300mぐらいの場所。
ここから西へ90km、北へ80kmほど登ったポカラで花
を見ることができた。
ポカラは海抜800m
ぐらい、葉はなく花
だけがあった。
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下写真は高橋敬一さんがタイのChiang Dao で撮影して送ってくれたE rheedii。典型的な莢の形をしている。いわゆる有縁節豆果で、タイ産のものは縁が太く節果が分離しない。
よくアジアン雑貨店や花材店でも売っているので見られた方も多いと思う。
同じE rheedii でもネパール産とタイ産ではこうも違う。
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高橋さんが写真を撮ったChiang Dao から南へ70kmほど下ったChiang Mai には下の写真のような莢が
見られる。写真撮った石神さんはタイのE spiralis と云っていたので「漂着モダマ展」では、そのとおり名前を
書いた。しかし、この螺旋形の莢の分布は、タイのChiang Mai 周辺とずっと南に下がったマレーシア国境付近にしか無く、
タイの他の地域ではストレートタイプが多い。
E spiralis の分布は飛び地して、タイの南と北にあるのだろうか。
そんな疑問を抱いていたら、脇田・立石らがDNA解析の結果、書きあげた系統樹には、
シンガポール産、タイ・チェンマイ産、中国海南島産が莢の形態(螺旋形であることから)が似ているということで、
E spiralis になっていた。系統樹の枝をたどっていくと、シンガポール産とタイ産はE rheedii のクラスターに
含まれ、中国海南島産はE phaseoloides のクラスターに含まれる。
私は分子系統学はまったくの素人だが、系統の違った個体が莢の形態が似ているということで、
同じ種にしてよいのだろうか、という疑問を抱いた。
私がこれまでモダマを追って旅してきた現場では、螺旋形の莢を何か所かで見てきた。
まあ、タイ・チェンマイ産ほどではないが、螺旋傾向にある。
有縁節豆果に限らず、マメ科植物の莢では螺旋形になる種が多々ある。
例えば、アカハダノキの莢もそうだ。例を挙げれば限がない。
Entada 属にしてもE gigas にも螺旋形の莢になりかけている傾向の個体が見受けられる。
私がこれまでモダマを観察してきた経験からすると、莢が栄養を種子に送り込む側の「縁」は、
そうでない側の「縁」より太い。つまり、マメの莢にはマメの臍と繋がって栄養を送る側の縁は栄養を送る
維管束があって太いわけだが、こちら側が過度に伸長すれば莢は螺旋形になる。
この生理的現象の結果の形態で種を分けてもよいのだろうか。
私がこれまでアジアで見てきたモダマ莢の中には、ある地域だけ螺旋形の莢をつける個体群を何か所かで
観察してきたので写真を載せよう。
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写真はラオスのルアンパパーンからバスで半日ほど山間部に入り、そこからさらに川を船で遡った
ムアンゴイという村の、さらに周辺の村々を調査したときのもの。
距離的には数キロしか離れていない村でも螺旋形の莢とそうでない莢が見られた。
ルアンパパーンの莢も螺旋にはならない。
また、中国雲南のモンラーの北の村でも螺旋形の莢を見たが、望天樹付近で見たものはストレートだった。
このような観察結果からすると、莢が螺旋形になるからといって、別の種とすることに疑いをもつ。
単に「ああゆう莢の形をするものもある」というだけではないだろうか。

そんなことから、シンガポール産、タイ産、中国海南産の莢が螺旋形をした個体群を
E spiralis と分子系統樹に書き込んだのは間違えではないだろうか。

形態的にいえば、そもそもモダマ莢は螺旋形になる要素があって、それが地域によって強く表れる
個体群とそうでない個体群があるだけのことではないだろうか。と私は思う。
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写真は台湾恒春半島のコンテイ国立公園にある林業試験場の研究中心の一室にあった書架のモダマ莢。
台湾には三種、一変種が分布しているが、ここにはすべての莢があった。
台湾では、モダマに「鴨腱藤」があてられ、学名はE rheedii をE pusaetha 扱いしている。
E pusaetha var formesana は、コンテイ国立公園のカルスト地形の頂あたりだけに分布して、
隔離、絶滅の危機にある種である。
この変種の莢は、節がヒョウタンのようにくびれるのが特徴である。
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写真のふたつの莢の下のものが、Var formosana 。
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写真は林立する石灰岩によじ登って撮ったもの。
近年では、種子が完熟しない傾向にあるらしい。

それはさておき、八重山諸島、沖縄本島に分布するE phaseoloides (かつてkoshunensis とした人がいる)の莢にも変異がみられる。ストレートタイプと上記のような節のくびれるタイプだ。
莢の変形だけでは、種を分ける基準にはならないのだろう。
DNAの解析をもとに作成された系統樹に、マレーシア産、タイ産、中国海南産をE spiralis とした
今後の成り行きを見守りたい。

by modama | 2013-12-14 10:31


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